■10月7日 今月30日に65歳となり日本相撲協会の定年を迎える立行司、第39代木村庄之助が5日の全日本力士選士権(両国国技館)で最後の土俵を務めた。およそ半世紀の土俵人生。動きが機敏で差し違えはほとんどなく、よく通る張りのある声も小気味よかった。番付の書き手を35年も務めた筆の達人でもあり、間違いなく相撲史に残る「名行司」の一人だ。
本場所は先月の秋場所が最後だった。その千秋楽、結びの大の里-安青錦を裁き花道を引き揚げる庄之助に中年の男性ファンが花束を渡そうとした。しかし、庄之助は前を向いたまま素通り。男性はバツの悪そうな表情で仕方なく横にいた付け人の力士に渡した。
NHKの中継でその一部始終が映り「せっかくの厚意、なぜ受け取らない」などとネットでは批判の声もあった。これには5日の会見で庄之助は「花道は力士が喜びや悔しさを抱きながら引き揚げる所。そういう所で花束はいかがなものか、と思って受け取らなかった」と〝正論〟を吐いた。
筆者の記憶では花道での花束渡しは昭和59年夏場所千秋楽、ハワイ出身の高見山が最初。40歳目前で十両下位に後退し、最後の相撲も敗れ2勝13敗で終えるとファンから両手にいっぱいの花束を贈られ涙を拭った。その後よく見かけるが引退相撲などの花相撲ならともかく、本場所にふさわしい光景とは到底思えず協会も「花道では受け取らないよう」と注意しているとか。
ならば庄之助は立ち止まり、ひと言「申し訳ない。ここでは受け取れないので」とでも伝えれば収まりがよかったろう。そうしなかったのも、余計なことはいわず黙々と土俵一筋に生きてきた庄之助らしかったといえるが…。(今村忠)